シン・ゴジラがひたすら怖かった率直な感想文

今週のお題「映画の夏」

 

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※ネタバレしかないので注意してください。

 

シン・ゴジラ」。

地元の映画館のレイトショーにひとりで観に行って、エンディングのテロップが流れおわって、劇場が明るくなって、他の人たちがぞろぞろ帰っていくなか、椅子から立ち上がれず頭を抱えていたら、あの人大丈夫…?みたいな声が後ろから聞こえて恥ずかしくなったので立ち上がったけど、ふらふらとした足取りで映画館を出たし、帰り道もずっと正気に戻れなくて、チャリをこぎながらもずっと打ちひしがれていた。

お化け屋敷が苦手で、はじめて行った富士急ハイランドの「戦慄迷宮」では、おばけから走って逃げて出口から出たあと、怖すぎて腰が立たなくてへなへな座り込んでしまったんだけど、あのときの感じとちょっと似ている。それか、成人してはじめて乗ったディズニーシーの「タワー・オブ・テラー」、あれもフラフラしながら出てきたし、「もうなんかよくわからないくらい余裕なかった…」としか感想が出てこなかった。

シン・ゴジラ」、パニック映画でも娯楽映画でもなんでもない、あれはアトラクションだ。すごかった、すごかった。いい意味じゃない、悪い意味で。私にとって数少ない、ものすごいトラウマレベルの映画になってしまった。

 

はじめに言っておくと、私はアニメオタクだけど「エヴァ」シリーズを今まで一度も観たことがないし、実写の特撮としての「ゴジラ」シリーズにもほとんど触れたことがない。いっっっちばん最初の「ゴジラ」は確か大学の映像の授業で見せられたけど、ほとんど覚えてない。全然印象に残らなかった。だからある意味、すごく純粋にこの映画を楽しめたんじゃないかと思う。

実写映画のゴジラモスラなんて全然興味なかったし、少し前に友人たちがハリウッド版ゴジラの最新作観に行くから一緒に行く? という話になっていたときにも、アタシ興味ないからパス~だった。

じゃあそもそもなんで観に行ったかというと、観に行った人がツイッターで絶賛していて、何度も観に行っていることを知っていたからだ。すごくいいよ! みんな観に行ったほうがいいよ! と喧伝していたので、そんなにおもしろいのか~だったら観に行かなきゃ~! くらいの、すごい軽い気持ちだった。前情報は、他の映画を観に行ったとき流れてた、人々が逃げ惑うだけの予告編と、監督・庵野秀明という情報。もうこの時点でけっこう興味を引かれてた。本当に軽い気持ちで、アニメ映画を観るくらいの気持ちで行ってしまった。

結果、大敗北。

 

もうずっとノンストップだし、現実がひたすら突きつけられるし、観てる最中口を手で覆っちゃうし、ウワーッとかイヤーッとかええっ…!?ウソ…!?とか本当に声が出た。お化け屋敷で驚かされてウワーッと反射的に声が出るのと同じ感じ。しかもそれがわざとらしい演出で驚かされるとかビックリさせられるんじゃなくて、じわっとくる現実的な怖さで、ってところが打ちのめされポイント。

なにが怖いかって、もう全部怖かったんだけど、まず最初にトンネルを走っていた車が(しかも車の主観視点で)赤い液体に襲われたところで、もうめっちゃ無理だった。もうしょっぱなから臨死体験した。うわこれ死んだでしょ…ってめっちゃビビった。

未知の生物かなにかもわからない状況で、スマホで撮影とか危機感のない民衆とかニコニコ的なコメントつきの動画とか、そういう馴染みの深い映像が、とくに誇張もされず、しかもパッパッと切り替わってどんどん表現されていくところ、月並みだけどすごくリアリティを感じられた。だいたいがもう、最初のゴジラ出撃のパートだけでめちゃめちゃめちゃめちゃ怖くて、第二形態になった時とかもうこれ以上はいやだ!やめて!ってなったから、いったん退いていったのはとにかくホッとした。ずっとこんなのが続くのかと思ってイヤになりそうだったけどそこは小休止挟めてよかった…。

無駄に民衆が殺されていく場面はないから、逆に「うわっ死んだ」って思ってしまうシーンがひとつひとつ重くのしかかってくる。

ゴジラ(小)のまだ小さくてウネウネ動き回って、目をがギョロギョロで、エラみたいになってる胸から赤い体液をジョバァと垂れ流すのがもう本当に生理的に嫌悪感をもよおしたし、めっちゃ気持ち悪かった。(そういえば、エヴァの機体? 敵? が傷ついたところからああいう赤っぽい体液を流すのはなんとなく知ってるぞ! 今思い出した)

 

リアルで怖いと思ったところ、最初に第一形態でゴジラがあらわれたとき、舟が川に押し上げられて小さい橋や周辺の家屋を壊して…っていう描写、3.11東日本大震災津波の映像を思い出させるものだった。あれをリアルタイムでテレビのニュースで見たときには本当に驚いたし、本当に日本で起こっている出来事なのか? って絶句した。あのときの怖い気持ちを思い出してしまった。あと、偉い人たちの記者会見の様子も、当時の状況を彷彿とさせた。マンションで荷造りしてた家族の部屋が壊されてめちゃめちゃにされるシーンもほんと無理。

あと、ゴジラに核を落とそう、ってなったとき、サブリミナルみたいに流された、日本の原爆の悲惨な映像。白黒。学校の授業で見たことあるやつ。あれが再び日本に、って想像させられて、人間の怖さも感じさせられてしまったのほんとダメだった。もうなにも信じられない。

 

あとあの、なに? 破壊光線、ゴジラの口と背中から出てくる破壊光線がマジで無理だった。あれが一番怖い。

無慈悲で、圧倒的で、美しくすら見える(私には全然美しく見えなくて怖いだけだったけど)ゴジラが破壊光線を出して、アメリカの強い武器を持つ機体すらも一撃で殺してしまって、東京をめちゃめちゃにしていくところ、ひたすらひたすら息苦しかった。実際呼吸できていたかどうかも怪しい。ああいう絶望的なシーンでオーケストラの美しい壮大な音楽を流すところがきっと監督の持ち味みたいなものなんだろうな。エヴァといえば第九っていうのは知ってる。

総理が乗ったヘリが破壊光線で…されたところ、イヤーッと声が出てしまった。つらかった。

後ろにチラッとテレビの映像で、亡くなった総理と首脳たちの写真が一覧で並べられていたのが見えたのも怖かった。バーンと映すんじゃなくて視界の隅にあるって感じで、ピントあってなくて、でも数秒くらい?しっかりと、写真が並んでいる画面が見えるの。ゾっとした。

 

最後の作戦をはじめるときも、矢口も他のみんなも、日本の存続をかけた戦い、みたいなかっこいいこと言ってるしみんな一丸となっているんだけど、みんな全然誇らしげじゃないし、逆につらそうなのがすごくきた。第一小隊が全滅した報告を受けたとき、悲しそうに目を閉じてぐっと耐えてた矢口の描写も本当にただつらくて、悲しかった。

だいたいがこの映画に出てくる人たちはみんな、優秀で賢い人ばかりで、高い給料貰って働いてるだけはあるんだなって思わせたし、粛々と懸命に考えて行動してるし、誰一人として規律を乱そうとせずヘマをする輩もおらず、それなのに太刀打ち出来ないものだから、よけいに絶望感が増した。自衛隊の、最初からその覚悟は出来ています、とか、仕事ですから、とかそういう、さらりと交わされる台詞がほんとうに格好良い。だからゴジラがそんな人々を、人々が守ってきた場所を、民衆を、見知った街を壊していくところを見るのは耐えられないほどつらかった。こんな馬鹿な奴らなんかモンスターに皆殺しにされてしまえ、とか全然思わなかった。もうやだ…ってひたすらヤダヤダしてた。

 

作戦が成功してゴジラを止められた時にも、みんなワーッと喜ばない。みんなただただホッとしている。溜め息すらついてる。そういう人々の様子にもすごく叩きのめされてしまった。ただひたすらに悲しかったし、つらかった。

きっとこれが海外の、それこそハリウッド映画とかだったら、みんなハグして笑顔で熱狂的に喜んでいるシーンがあったんだろうけど、日本はそういう国じゃないんだな、って思わせるものだった。この、みんなホッとしているシーンがつくりものの演出なんだとわかっていても、ああ本当にこれがリアルなんだな、って思わせる説得力があった。

ゴジラはまだそこにいて、姿が見えていて、事態は収束したわけじゃない、ってなるのも無理だったし、ラストシーンの尻尾の大写しで終わるところも、最後まで安心させてくれなかった。よかったね、のハッピーエンドなんかじゃなかった。だから最後まで猛スピードで駆け抜ける暴走列車に乗っていた気分になった。

こういう系の作品を少しでも見ていると(というか絶望とかカタルシスが気持ちいいタイプだと)、最後の決戦で圧倒的に強力な敵をいいところまで追いつめるシーンに来たときに、そのまま順調に倒してくれ! っていう気持ちと、いや、圧倒的に無慈悲な力でそれすらも叩きのめして全部壊して欲しい! っていう気持ちがせめぎあう。ずっと怖すぎて余裕なかったけど、ヤシオリ作戦のシーンではちょっとそういう風に思ってしまった。結果的には作戦は成功したけど完全に倒したわけじゃない、っていうちょうどいい感じの、全然良くないかんじでラストシーンになったのも、完璧に叩きのめされたポイントのひとつ。

 

自衛隊が総力を結集してゴジラを倒そうとしてたところとか、はぐれものどもが力を合わせるとか、若い優秀なオネーチャンとか、色んな企業に協力を仰ぐところとか、総理が自分だけ逃げられない!と言うところとか、総理代理が頭を下げてフランスの偉い人に頼み込むとか、無人列車で見知った色の鉄道がゴジラに襲いかかるシーンなんか、オタク的にはもうめちゃめちゃアツいしかっこいいし最高だった。戦車はガルパンだし陣営の組み方は刀剣乱舞で知った単語だし、冷静なインテリと現場担当熱血主人公が仲良いとか踊る大走査線だし(?)(あとアニメ的な文脈をもちこむといえば、「やったか!?」はマジでやめてくれ…。この世界ではフラグでしかないって知ってるのに、この映画だとリアルに震え上がってしまう…)、日本スゲ~~~!!!って素直に感動してしまうし、日本は強い、すごい、日本人は偉い、誇らしい!ってすっごく思えた。

でもだめだった。これはそういう映画じゃなかった。そういうアツさや、それこそアニメ的な展開のおもしろさがふんだんにこれでもかというくらい盛り込まれていながら、恐怖が勝ってしまった。ゴジラそのものへの怖さもそうだし、被害をリアルに想像させる怖さ、リアリティの恐怖というか、つくりものっぽくない現実感を伴った怖さ。そういうのがどんどん襲いかかってきて、震えるほどにまでなってしまった。

 

いやもう、観たことを後悔するほど打ちのめされてフラフラのヘロヘロになってしまったし、泣くほど怖かった。こんなトラウマを植え付けられたのは「羊たちの沈黙」以来かもしれない。あれも観たあと殺人鬼がいるんじゃないかとめちゃめちゃ怖くて、家の鍵がしっかり閉まってるか確認してチェーンもかけて寝た。

シン・ゴジラ」、この映画をみて、いや~おもしろかった! 楽しかった! となる人とはきっと仲良くなれない。ゴジラかっこいい! となる人ともきっと友達になれない。ほんとうに怖かったんだ。ゴジラに対して憎しみすら湧いてこなかった。憎む余裕もなくひたすら怖がってた。

おもしろかった、最高だったという絶賛の感想だけに惑わされてはいけない。災害とか原爆、戦争の映像、放射能の話題とかが苦手な人はダメだと思うし、戦争を体験したことがなくて、3.11のときも家が壊れるとか身内が被害にあったとかそういうの全然なかった私ですら、ちょっとフラッシュバックをおこして怖くなってしまったよ。苦手な人は気をつけたほうがいい。それぐらいのリアリティをもって作られている。

 

いやしかし、庵野秀明監督という人はすごいんだな…。エヴァも観なければならなくなってしまった。

日本ってすごい。捨てたものじゃない。いいものがこんなにたくさんあるんだな。そう思えるのが結局嬉しいので、やっぱり観てよかった。でも後悔するほど怖かった。隣で手を握って一緒に見てくれる人が必要だった。