ミッドサマーで気持ちが塞いだ率直な感想文

 

ひとりにして欲しい。

 

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※ネタバレしかないのと、映画がR15指定で刺激的なシーンへの言及もありますので注意してください。

 

 

映画『ミッドサマー』。溜息しか出ない。またトラウマ映画をひとりで観に行ってしまった。帰ってきて、本当はあまり何もしたくないしシャワーも浴びず布団を頭までかぶって寝てしまいたいんだけど、自分の気持ちを切り替えるため、そしてこの映画を観なくてもいい人が「話題になっているから」という理由で軽い気持ちで観に行ってしまうのを防ぎたいので書くことにする。

 

私にはトラウマになっている映画が二つあって、一つは『羊たちの沈黙』、もう一つが『シン・ゴジラ』だった。前者は猟奇殺人犯が、後者はゴジラという巨大生物が怖かったという、方向性が違う怖さなんだけど、どちらも余韻が長くてしばらく忘れられなかった。『ミッドサマー』は、また新しい方向性の怖さだった。「怖い」という感情ではないかもしれない。とにかく気持ちが落ち込んだ。

この、よく言われる「トラウマ」とは、映画に限らず私たちにいつでも起こりうる。良くも悪くも人生に影響を与え、その後のその人の心に鮮烈なイメージを残すものだ。多くの人はそれをネガティブに捉えがちだが、私はそれをポジティブに捉えようと思う方の人間だ。なんだって経験なのである。幼い頃の劣悪な環境が原因で心を病んだ人間が素晴らしい芸術家になるなんてよくある話だ。

しかししかし。そういう経験は、しなくていい。基本的にはしなくていい。しないほうがいい。できれば回避すべきである。あなたは、トラウマになるということがわかっていて、その後の人生に多大な影響を及ぼすとわかっていて、虐待をする母親から生まれてきたいと思うか? または暴力を振るう父親の元に生まれたいと思うか? 生まれなくていい。選べるなら、他の親を選んだ方がいい。ミッドサマーじゃなくて、他のハッピーな映画をみた方がいい。

ショックを受けたことってしばらく頭から離れない。忘れたくてもその「忘れたい」という気持ちすら湧かなくて、ただ打ちひしがれることしかできない。「忘れたい」という気持ちが湧き上がってきた瞬間から心は元気を取り戻していて、日常に戻れる。心は元の状態に、本来自分が持っていた状態に戻れる。

ただ、一度ショックを受けた心は、似たようなショックを受けたとき、「またか」と思うらしい。ぶっちゃけて言っちゃうと、気持ちよくなってしまう。ショックを受けて気が落ち込んでしまうのを「受け止めて」しまうらしい。心理学的なことやそういうメカニズムのことはよく知らないし、私だけかもしれないけど。無気力になり、IQ2になり、電話に出られなくなり、立ち上がれなくなり、頭が重くなり、喋る気すら起きなくなり、頭を抱え、溜息をつくだけの人間になる。鬱である。

そう考えると、私は現在進行形でマジでガチでバチバチにキマっている。これはキマっている人の文章です。

 

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キマっているといえば、この手の動画を見てやってみたことがある人ならわかると思う、視界がぐにゃ〜ってなるやつ。ヤクブーツをやるとこんななっちゃうらしいんだけど、主人公(たち)がクスリをやって(もしくはやらされて)トリップしてる場面では画面がこんな風にぐにゃ〜ってなってる。最後の方はけっこうずーっとぐにゃぐにゃしていて、まるで自分もトリップしてしまったかのような気分になる。トリップするってこんな感じなのか…みたいな。見る麻薬とか言ってる人がいるのは多分この辺が原因。あと主人公の頭のお花が一個だけず〜〜〜っと動いてて、呼吸してるみたいに開閉しているの。生花が一個だけ。その一点が気になっちゃって、自分も幻覚見てるのか?みたいな気分。エンディングテロップで同じような動きをしたお花がちりばめられてて、ああやっぱりそういう演出だったのね…怖…となった。

 

この映画を観終わって感じた余韻、まず思い出したのは『さよならを教えて』という伝説の鬱エロゲー。界隈では有名すぎる「注意書き」がある。

 

このソフトには精神的嫌悪感を与える内容が含まれています。以下に該当する方は購入をご遠慮くださるようあらかじめお願いいたします。

⚫︎現実と虚構の区別がつかない方

⚫︎生きているのが辛い方

⚫︎犯罪行為をする予定のある方

⚫︎何かにすがりたい方

⚫︎殺人癖のある方

 

このゲームのストーリー(結末)を知ったあとは、丸1日寝込んでしまった。同じような鬱状態である。救いがない、人生は苦しい、あぁ……。と嘆くだけの1日を過ごしてしまった。『ミッドサマー』、これぐらい注意書きをしておいた方がいいんじゃないだろうか。人生で鬱経験のある人は、フラッシュバックみたいな感覚に陥ってしまう可能性があるよ。

 

この映画で一番「ホラー映画っぽい」のは冒頭10分。予告編の明るい映像のイメージでいたから最初は、えっ普通に怖くね? と思った。不安を煽るような、高い音で小刻みなBGMはヒッチコックのサイコ的な古典的サスペンス手法なんだろうし、暗い画面でじわじわとズームになるところとか、ホラー映画やサスペンス映画〜って感じの怖さだった。あ〜〜怖いよ〜〜画面が斜めで不安だよ〜〜半分くらい暗くて隠されてるよ〜〜なに〜〜なんか起こるぞ〜〜ヒィ〜〜死体〜〜!! みたいな。

主人公の両親の(きれいめの)死体と、妹がホースを口にガムテープ?で自分で貼り付けて自殺したところとか、けっこうそれだけでショッキングなんだけど、これが冒頭10分。冒頭……10分。ここでオープニング。もう気が思い。

 

本当に注意書きしておきたいんだけど、いろいろ言っている人もいるし監督もこう思って作ったよ〜みたいなこと言ってる記事がいろいろあるようですが、これはホラーでスリラーでサスペンスなので、そういうジャンルが好きな人だけみにいってください。得意じゃない人にはおすすめしません。「コメディだった」「恋愛映画だった」って言っている人はだいたいホラーとかサスペンス慣れしてる人が言ってるから。そういう映画が好きで耐性あってよく見る人が「これはホラー・サスペンスのなかでもコメディといえる」「これはホラー・サスペンスのなかでも恋愛映画といえる」って言ってるだけだから。

 

話を戻そう。ホラーっぽい冒頭10分が終わると、もうあとは、あまりホラーっぽい演出はなくなる。怖いっぽいBGMも怖いっぽい驚かしも、最後までない。移動する途中で主人公がトイレの暗がりに親の顔を幻視するところなんかはまだ普通に怖いけど。ちょっとサスペンス要素を残している。わぁ怖い;;ヒィ;;幻覚見てかわいそう;;;てなる。でもそのあとは予告で見た、明るい青空と綺麗なお花と白い服ばかりになる。夏のからっとしたいいお天気なんだろう。日本の夏のじめっとした感じとは全然違う。過ごしやすくてあたたかくて爽やかで、とても白い。ただ、その村に辿り着くまでの車で移動するシーンが、上下逆さまになっていて、じめっとしたカメラの移動のしかたで、すごく不安を煽られる。あぁ…行ってはいけないところに行くんだな…行きたくないな…という気分になる。

最初に来るのは、老人夫婦らしき二人が崖から飛び降りる儀式。手のひらをナイフで深めにビーッと刺して、その血を石盤に塗るところからもう既に気分が悪くなったんだけど、だめだ早い。耐性がない。崖の上に立った時点でもう、ああそうなんだろうなと思ったけど、まず女性が飛び降りて、下にあった石に正面からぶち当たって顔が潰れる。それがいきなり画面に大写しにされる。男性も飛び降りるけど、一発で死ねなくて、足が変な方向に折れ曲がっていて骨が見えていて、苦しんでいる。女性の時は静かにしてた村の人たちが一斉に嘆き初めて、大きなハンマーで男性の頭が砕かれる。バコ、ベコ、みたいな嫌な音がして、半分になった顔面とかが大写し。配慮なし。

ここのシーンがこの映画で一番嫌な気持ちになってしまったところなんだけど、なぜならこの後に出てくるゴアシーンは、指の隙間から画面を見ていたから。ここは防ぎようがなかった。俺は弱い。

あっ……?と思っているあいだに、怖い演出もなにもなく突然人の裏側が画面に出てきたら、未知の感覚にとらわれるに決まっている。日中、当然のように人の裏側を見せるような場面に、誰だって遭遇したことがないからである。

老人はああやって死ぬことで命が円環となり〜みたいに、ここでの風習なんだとかいろいろと説明されて、「ここの人たちにとっては、老人を施設に入れるほうがショッキングかも」と主人公は諭される。はいこれ、「トラウマをなんとかいい方向に受け止めようとする心の動き」です。みんな絶対真似しちゃいけないからね。いやだったら逃げてもいいんだよ。

そう、怖かったことや嫌だったことをポジティブになんとか受け入れようとすることって、過大なストレスを伴うのである。トラウマを克服する方法、人によって違うと思うけど、受け入れようとしないでいい、と私は思う。忘れていい。なかったことにしようとしたっていい。なぜならそのトラウマは「起こらなくてもよかったこと」なのである。この出来事があったから私は強くなれたとか、今の自分がいるとか、思えるあなたの心のあり方は尊敬できるし、気高い魂を持っていると思うけど、無理にそう思おうとはしなくてもいい。

でもこの映画はそのストレスと、ずっと向き合うことになる。過大なストレスを伴いながら、辛いことも恐ろしいことも受け入れていく方向に「怖い」のである。だから人によっては、この「怖さ」が「怖さ」ではなく、「浄化」になる、んだと思う。最終的には主人公は、自分もその儀式の一部になって恋人を殺して、晴れ晴れとした顔になっているし、最後らへんで自分を祝福してくれる村人の中に母親の顔を幻視している。アカン方向に強くなっちゃってる。

 

最後の方、怖すぎて滑稽だったところがたくさんあった。主人公の恋人が全裸で村中を逃げ回って小屋に入ったら友人が鶏の餌になってるのを見つけた時とか、めっちゃグロいんだけど完全にコメディの文脈だったし、主人公の過呼吸と泣き声を真似されるのも、すっごい奇妙だけど、それを引きのカメラでうつされると、冷静にその状況を見れちゃって、なんだかおかしい。最初はサスペンスからはじまり、怖〜い雰囲気がだんだんオープングロ、オープン狂気になっていって、どんどんコメディになっていく。最後は主人公が満足そうな顔になって終わる。だからこれをハッピーエンドだっていう人もいるし、救いだっていう人もいる。

 

ン〜〜〜〜〜〜〜〜〜なわけあるか!!!!!!!!!!!

 

悪趣味だし、ぜんぜん笑えない。なんて野蛮な映画なんだろう。『地獄でなぜ悪い』の時と同じ胸糞悪さである。これ見て楽しい〜!エキサイティン!大好き〜!ってなる人の気持ちがわからん。野蛮すぎる。人はこんなにも野蛮なのか。怖すぎる。人間怖い。

私はこの映画を観て嫌な気分になったし、映画の批判ではなく、一つのファンの感想として、途中から見るのがつらくなったし気が塞いだ。この映画のファンの感想として、人にはおすすめしたくない映画だ。こんな(いい)気持ちになるのは(なれるのは)、私のような人間ぐらいでいい。

 

未知の感覚だとか、新しい映画だとかいろいろ言われているようだけど、洋画の(悪いけどひとくくりにしてしまいます)あまり好きではないところがこの映画にもあって、そこもある意味では嫌な気持ちになった要因の一つ。それは登場人物が愚かな行為をしたために殺されたり酷い目にあうってところ。この映画でいうと、論文を書くために大切な書物の写真を撮っていいか?と言ったら断られたので、夜こっそり忍び込んで写真を撮りにいく、案の定殺される、とか。チャラい男が立ちションしてたらその木は大事な木なんだ!!!その男のナニを切りおとせ!!!って激怒されて、のちにやっぱり殺されるとか。いや当たり前やろ〜!なんでそういうことするのバカ〜!ってこと、洋画のホラーやサスペンスにけっこうないですか?こんなバカな奴なんか皆殺しにされてしまえ…って思っても仕方ないよね。そういう手法なのか?あれが個人的には好きじゃない…。邦画だけど『悪の教典』の生徒たちとかも同じ理由で好きではない。生徒を殺しまくる先生に対して、性格悪い奴とか他人を貶めて自分だけ助かろうとする奴とかがいたほうがおもしろいんだろうけど。でもそういう人が一切いなくて、みんなで協力してるのに先生には勝てないってほうが怖くない?結局怖いのは、怖い風習でもサイコ人間でもなく、普通の人間なのか…いやだ…ってなる。まだ、猟奇殺人犯とか巨大生物とかを怖がってる方がいい。普通の人が一番怖いじゃん…ってなる。

そう、普通の人が一番怖いのである。もういやだ。

 

でも、人は怖いことにも勇気を出して立ち向かわなければならない場面がたくさんある。生きることは戦いなのである。人生、苦しいことでいっぱいだ。生きることは苦しみなんだ。もういやだ。立ち向かっていかなければならないのだ、私たちは。ああもういやだ。泣きそうだ。ちょっと泣いてる。

 

という感じで、精神的にまいっている人や自殺願望のある人は見に行かないことをお勧めするし、気が塞ぎがちな人は内にこもってしまうと思うので、観に行かない方がいい。観に行くにしても、信頼できる友達と、大事な人と、もしくは底抜けに明るい人と観に行くのがいい。しかも、薄っぺらい感想じゃなくて、観た後に自分の心境をちゃんと打ち明けられるような友人と一緒なのがいいと思う。

私はひとりで観に行ってしまったので、もう内にこもるしかない。せめて静かな場所で、落ち着くまで、元気になるまで、ひとりで過ごさせてくれ。ただ頭を抱えて、打ちひしがれる時間をくれ。ハァ〜〜〜〜〜〜〜〜。(クソデカため息)

 

ひとりにして欲しい。